ノーベル経済学者のRichard H.Thaler氏が来日なさるという事で、お話を聞きに行ってまいりました。写真は代表的著書である「Nudge」です。
皆さまはNudge-ナッジということばをお聞きになったことはありますか?”肘で軽くつつく”という意味で、金銭やルールによる強制ではなく、伝え方を工夫することで人の行動を変える戦略を意味します。
現実の人間は非合理的に行動する
たとえば、レストランで何を選ぶか、インターネットで何を買うかといった日常の些細な事から、仕事の選択や結婚相手を選ぶといった重大な問題に至るまで、私たちは日々意思決定をしています。
その際、必ずしも合理的な意思決定が出来る訳ではなく、時には感情に流されたり、判断ミスをするなどによって非合理的な選択をしてしまう事があります。
従来の経済学では人間は損得を考えて合理的に行動するという前提でモデルを組み立てます。しかしながら実際の人間の認知には限界があり、100%合理的な行動をとる事は出来ない。こうした人間の持つ特性を理解した上で、選択が最良なものになるよう手助けを行う事が出来るというのがナッジ理論の考え方です。行動経済学は経済学と心理学という異なる人間像を前提とした学問を組み合わせたという意味でイノベーティブであると言えるでしょう。
このナッジ理論、ビジネスパーソンとして知っておいて損はないと思います。ご興味がある方は是非ご一読ください。日本語版は『実践行動経済学』というタイトルになります。
ここで示された”非合理な意思決定”の例がとても興味深いものでしたのでご紹介します。
『カリブ海周辺の企業を主体に組み込んだ”CUBA”という名前の投資信託があった。名前はキューバであるものの、キューバ国とは無関係。ところがオバマ大統領がキューバ国と国交正常化に向けた交渉を行ったというニュースが流れた途端、キューバファンドの株価が値上がりした。単にCUBAという名前というだけでキューバ国とは関係ないにも関わらず多くの人が飛びつく。そしてバブルが発生する。これでは効率的市場などとは程遠い状況だ。』-意思決定とは無関係とされる要因が実は意思決定に影響を及ぼしている。
翻訳機か自分の耳か
さて、当日は翻訳機と並行し、ディスプレイに同時通訳方式で日本語が表示される形が採用されました。途中でThaler氏が日本語でお話をなさったため、自動音声認識を確認したところ、意味不明の日本語がディスプレイに表示されていました。現状の音声認識翻訳のレベルを知る事が出来たという意味では収穫でしたが、少々残念な気持ちになりました。他にも訳が飛ぶ、間違えると言った事が頻繁に起きていたため途中から参照するのをやめました。当日は翻訳機も配布されておりましたので、精緻さを求めるならば同時通訳による翻訳機を使用したほうが良かったのでしょう。
どちらにしても、翻訳者を通じてではなく、氏の発した言葉そのものを直接聞くことで、きめ細かなご配慮、ご発言の意図、熱量を臨場感をもって感じ取ることが出来ました。そして私が英語を学んだのはそもそもこういう体験がしたかったからなんだよな、と原点回帰しつつ帰路につきました。
筆者:KM
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