私の仕事の原点には、ひとつの問いがあります。
『企業は、どのようにすれば変化し続け、本来の力を発揮できるのか。』
技術者、公認会計士、事業会社の経営企画、そして現在のルミナスでの仕事。振り返れば、これまで歩んできたすべての経験は、この問いと向き合うためのものでした。企業が変化するために何が必要か。突き詰めれば、認識の質にあると考えています。その確信は、幼いころからの経験に根ざしています。
1.原点-仕事の仕組みへの違和感
東京都世田谷区で生まれ育ちました。
幼いころから好奇心が強く、大学時代は海外旅行やさまざまなアルバイトに夢中になっていました。家庭教師、結婚式場の受付、宝飾品の販売など、経験した仕事は十種類を超えます。知らない世界を見てみたい。その世界では、人がどのように働き、どのような仕組みで価値を生み出しているのか。それを知る事が楽しかったのです。
その中で、特に印象的な出来事があります。
ある職場では、その日の売上や経費を、提出先ごとに異なる複数の帳票へ記入していました。内容はほとんど同じにもかかわらず、提出先が違うという理由だけで、担当者は毎日のように残業していました。「なぜ同じことを何度も書くのですか。」そう尋ねると、返ってきた答えは、「決まりだから」というものでした。
その時に感じたのは、単なる業務効率への疑問ではありませんでした。現場で働く人が努力していても、仕組みそのものが変わらなければ解決できない問題がある。企業を良くするには、人の頑張りだけではなく、仕事の仕組みや意思決定のあり方を変える必要があるのではないか。当時はまだ言葉にできませんでしたが、企業という組織がどのように動き、なぜ合理的ではない仕組みが残るのかという事だったのだと思います。
この経験が、後の私の仕事につながる最初の問題意識になりました。
就職活動では、金融、通信、広告代理店、航空など、業界を限定せず多くの企業を訪問しました。
私が知りたかったのは、一つの業界の専門知識ではありません。企業とはどのように動いているのか。社会を支える仕組みはどのようにつくられているのか、に関心があったのです。
その問いから、これからの企業活動において重要になるのは情報技術だと考え、大手IT企業へ入社しました。
入社後は長期間の研修を通じ、アルゴリズムからビジネスマナーまで、社会人としての基礎を徹底的に学びました。金融システム事業部に所属し、プログラミング、仕様書作成、システム設計、顧客企業への要件定義など、システム開発の工程に携わりました。
そこで学んだことは、システムとは単なる技術ではない、ということでした。
システムをつくるには、業務を理解し、人の動きを理解し、情報がどこから生まれ、どこで意思決定につながるのかを理解する必要があります。技術者として、企業の業務プロセスをシステムという形に落とし込む中で、組織や情報がどのようにつながり、意思決定を支えているのかを理解する視点を養いました。
一方、同じ仕組みを導入しても成果をあげる企業と、そうでない企業があることにも気づきました。企業を動かしているものは、仕組みだけではない。その背景にある経営判断や財務、組織のあり方を理解したいと考えるようになったのです。
その頃、公認会計士という仕事を知りました。
興味を持った理由は、資格そのものではありません。「企業を数字から理解する専門家」という点に強く惹かれました。会計とは目的ではなく、企業活動を理解するための言語です。企業を理解するには、技術的な知識だけでも、業務経験だけでも不十分であり、企業活動の成果として表れる数字を読み解く力が必要だと考え、公認会計士資格の取得を決断しました。当時は働きながら合格することが極めて難しい時代でした。退職という決断は決して軽いものではありませんでしたが、自分が将来目指す仕事には必要な選択だと考えました。
試験を通じて学んだことは、会計知識だけではありませんでした。限られた時間の中で何を優先し、成果をあげるのか。複数の課題を同時に進める考え方。本質と枝葉をどのように見分けるのか。こうした思考の型は、その後の仕事の基盤になっています。
合格後は、大手監査法人の国際部金融グループに所属し、公認会計士として多くの企業の監査に携わりました。監査法人で得た大きな財産は、様々な国籍の専門家と働き、業種・規模・国の異なる数多くの企業を見る機会を得たことでした。
比較することで初めて見えるものがあります。同じ環境にあっても成長する企業と停滞する企業がある。業績や企業価値の違いはどこから生まれるのか。そう問い続ける中で、財務諸表の背後にある経営者の意思決定や組織の特徴を読み解く視点が養われました。財務諸表は単なる数字の集まりではありません。そこには、経営者の判断、事業への向き合い方、組織の特徴、リスクへの対応が含まれています。
公認会計士として、私は企業を外側から見る視点を養いました。
公認会計士として多くの企業を見る中で、次第に強くなった思いがありました。
企業を外部から評価するだけではなく、自分自身が経営の現場に入り、変革を実行してみたい。
そう考え、上場企業の経営企画部門に転じました。そこでは責任者として、財務戦略・M&A・組織構築、ガバナンスなど、経営の中核に関わる仕事に携わりました。
この経験によって、外からみる世界と、中に入って実務を動かす事とは、まったく違うことを実感しました。
外部から見れば、解決すべき課題は明確です。
しかし、組織には歴史があります。人にはそれぞれの立場があります。制度を変えるだけでは、人の行動は変わりません。どれほど正しい提案であっても、現場で納得され、実行されなければ意味を持ちません。逆に、現場だけでは全社最適を描けないこともあります。
変革には、正しい答えを示すだけでなく、組織の現実を理解し、人が動く形へ落とし込むことが必要です。
この経験を通じて、そのような考えに至りました。
これまでの経験を振りかえると、それぞれの仕事は一本の線でつながっています。
技術者として業務プロセスと組織の動きを理解し、公認会計士として財務諸表の背後にある経営の実態を見る目を養いました。事業会社では、財務、M&A、組織改革、ガバナンスを自ら実行しました。外部から診る視点と、内部で動かす実務の両方を経てきたことが、現在の仕事の土台です。
信頼されるアドバイザーであるためには、自ら事業責任を担った経験が不可欠である。その考えのもと、創業後も起業家として複数の事業を立ち上げ、現在は上場・非上場を問わず、海外展開を行う企業にアドバイザーとして関わっています。
現在は、財務、組織変革、ガバナンスの領域を横断しながら、企業の経営改革を支援しています。私たちが提供したいのは、単なる専門知識ではありません。企業の変革は認識の問題であり、個々の専門性をいくら束ねても、必ずしも正しい経営判断を生みません。経営を構造として読む視点から、経営の認識そのものに働きかける。それが私たちの仕事です。
経営者とともに考え、現場とともに動き、企業が持続的に成長できる変化を実現する。学生時代、知らない世界を見てみたいという好奇心から始まった歩みは、今、企業を多面的に理解し、その変革に貢献するという仕事につながっています。
企業は複雑です。だからこそ、専門性の垣根を超えて向き合うことで、初めて見えてくるものがあります。技術、財務、経営、それぞれの経験を生かしながら、これからも企業の成長と変革に貢献していきたいと考えています。
松橋 香里
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