皆さまは、bean counterという言葉をご存知でしょうか?
文字通り、“豆の数を数える人”、つまり、こまごまとした数字を集計するなど、専ら過去取引の処理にばかり時間を費やす人を揶揄する表現です。
「単なるbean counterになるな。」
数値を正確に集計する事のみに関心をもってはならないという意味で、企業内で“会計関連業務”に携わるCFO等への戒めとして用いられる言葉でもあります。
なぜ、このような話をするのかと言うと、最近またこの言葉を頻繁に聞くようになってきたからです。「あのCFOは“単なる経理屋”だから。」
●アカウンティングはbean countingなのか?
企業内における会計関連の業務にはアカウンティングとファイナンスがあります。
ざっくりと説明しますと、アカウンティングは企業が行った取引を数値で集計し、財務諸表をつくる仕事。そして財務諸表から企業の特徴や戦略を読み解き企業経営に活かしていく仕事です。どちらかというと過去及び現在の情報に焦点をおく傾向にあります。成果物である財務諸表(損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書等)は、企業の利害関係者が使用します。会計基準に従って迅速に、正確に処理することが求められますので公認会計士のような専門家に一日の長があります。
ファイナンスは、どこに資金を投じるか、必要資金をどこから調達するか、投資や調達の見返りとしてのリターンを予測し、企業価値を評価する仕事です。予測は未来の事ですから不確実性を伴いますが、これを資金の出し手に理路整然と説明することが求められます。Investment Banking(投資銀行)業務を行う方などが得意とする分野かもしれません。
アカウンティングのうち、「つくる」作業にのみ関心を持つ人がbean counterと呼ばれます。
●アカウンティングよりファイナンスが大事、は本当か?
企業実務及びCFOに求められる資質として、ファイナンスが注目されています。
こう言うと、絶対的な価値観として存在するかのように思われがちですが、実はアカウンティングとファイナンス、どちらが重視されるのかは、時代の要請によるところが大きいのです。
たとえばSOX法の導入時には、CFOはこれらの法律に対処できる人物でなければならないという記事が新聞等をにぎわせていました。また、財務諸表からベンチマークとなる企業の特徴や戦略を読み解き企業経営に活かす事が頻繁に行われていました。
今日、こうした他社比較はビジネスモデルの多様化とともに以前ほどは行われなくなっていますし、株主の声が強くなってきている事を踏まえ、経営の視点から株主に対して投資とリターンの関係を的確に説明できる人物が求められています。このような背景があり、『CFOはCEOの戦略パートナーとして、ファイナンスに長けていなければならない。単なるbean counterではいけない』という話を聞く機会が増えてきました。
●CFOにアカウンティングの知識は不要か?
ではCFOはどのような知識をどれほど有していれば良いのでしょうか?
いかにファイナンスが重視されているとはいっても、アカウンティングの知識が無くても良いという事ではありません。出来上がった財務諸表から企業の戦略を読み解いたり、自社の戦略が伝わるように表現する視点は不可欠です。
アカウンティングの知識が無いままに財務情報の表面をさらっと見て事の本質を理解するという事が本当に出来るのかどうか、私は疑問に思います。結果だけでなく、結論に至るまでに行われた会計上の判断、処理のしくみといった作成プロセスや勘定科目の性質を知っていてはじめて気が付くことが沢山あります。少なくとも簿記2級程度の知識は必要でしょう。いずれにしても、財務諸表を読み解く力がベースになるのです。
●過去、現在の実績と将来は独立には存在しえない。
また、アカウンティングとファイナンスを綺麗にわける事はなかなか難しいと感じます。
将来の姿を描く事は会社の成長にとって重要です。とはいえ、過去や現在なくして将来を語ることは出来ません。過去・現在と未来は独立には存在しえないからです。
私たちが将来を語るとき、過去、即ちそれまでの実績は当然に存在し、私たちの未来の選択肢を規定します。それがたとえイノベーティブな事業であったとしても。
加えて、両者の境界も曖昧です。いわゆる管理会計では事業の未来を扱いますし、財務会計の分野においてもIFRS(国際会計基準)はファイナンスの要素が強く反映された会計基準です。財務諸表の作成業務、すなわちアカウンティングに携わる人もファイナンスを知らないという事ではつとまらないのです。
●個人にも求められる攻めと守りの姿勢
CFOがアカウンティングの知識を有するだけでは不十分であり、ましてやbean counterであるなど言語道断。会社に攻めと守りの両方の姿勢が求められるように、個人にも攻めと守り、両方の姿勢が求められます。個人のダイバーシティと言ってもいいでしょう。
俯瞰することと、数字を読み解くという視点、そして将来の不確実性への向き合い方をみなおすこと。簡単な事ではないと思いますが、周囲もそれを期待しているように感じるのです。
私には、「あのCFOは単なる経理屋だから」ということばが、「頼むから過去数値の整理だけで終わらないで欲しい。」という期待に聞こえるのです。そして会計士がもっと『ファイナンス』の世界に出て行けば、これほど強い事はないと思うのですが、いかがでしょうか。
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