グローバル人材へのインタビュー。英語を使ってお仕事をなさっている方にご自身の経験をお話いただきながら、英語に関する『よくある疑問』にお答えいただきます。
今回は留学や海外経験なしで英語をマスターされ、現在は世界を舞台に会計コンサルタントとしてご活躍のAさんに丸の内でお話をお伺いしました。
L(Luminous Consulting):今日はどうぞよろしくお願いします。
まずご経歴からですが、Aさんは現在、大手会計系コンサルティングファーム(企業)で外資系企業をクライアントとして英語でお仕事をなさっているそうですが、留学や海外経験なしで英語ができるようになったと伺いました。まず、英語との関わりについて教えてください。
◆公認会計士の資格取得後、MBAを目指す。
A:よろしくお願いします。まず公認会計士の資格取得後、大手会計事務所の一つに入りました。配属された部署がたまたま外資系企業へのコンサルティングが多く、クライアント担当者の多くが外国人という状況でした。ミーティングもメールも英語でした。大学受験以来、英語から遠ざかっていましたので、英語力をとり戻そうと英語学習を再スタートさせました。この会社では6年間働きました。
当時、将来は留学してMBAをとろうと思っていましたが、1年、2年の期間の留学は費用面でもキャリアの面でも現実的ではないと考えていました。そんな時、3か月~6カ月単位でファイナンスや経営学、マーケティングなどMBAで学ぶような科目を受講できるUCバークレーのエクステンションコースの存在を知り、これを目指すことにしました。このコースの入学要件がTOEIC800でしたのでTOFELではなくTOEICを勉強したのです。
L:手ごたえはいかがでした?
A:最初は730点でした。なかなか伸びず、参考書を変えてみるなど自分で工夫しました。必死にやるうちに800点になりました。それでいよいよアプライしようとしたときに、外資系証券会社で内定をいただいたのです。迷いましたが留学はやめてここで株式上場とオファリング(株式等の引受先の募集・売出し)の仕事を始めました。
ただ、そこではTOEIC900は当たり前といわれました。それでまた勉強です。土日は勉強に費やし、TOEIC問題集を中心に解いて890点をとりました。
L:そこまで到達するのにどれぐらいかかりましたか?
A:働きながらの勉強で、730点から890点にいくまで確か3年ほどかかりました。
L:その後、外資系証券会社から事業会社に移られました。
ご経験のなかで何かターニングポイントとなるようなエピソードがあったのでしょうか?
◆ターニングポイントは事業会社での経験
A:次は事業会社でM&Aのプロジェクト・リーダーとして海外本社のM&A部隊と一緒に働きました。ここが私の一番のターニングポイントです。
入る前は知らなかったのですが、入ってみたら同僚は外国人、報告先経営陣も外国人、買収の相手方も外国人と、日常業務の8割方は外国人が入った仕事になりました。部下が3人いましたが、そのうち1人が外国人でした。1人でも外国人がいると英語で話をしないとならなかったのです。東京にいながら海外勤務という状態です。
入社当時は簡単なメールでのやりとりが出来る程度でした。採用側もTOEICが890点あるので問題ないだろうという感じだったのでしょう。しかし私はいわゆる典型的な『ペーパーテストは出来るが実際に現場で生の英語を使おうとすると半分もわからない人』でした。ショックでした。今から振り返ると、TOEICのための机上の勉強しかしていなかったので当然かもしれませんね。監査法人の国際部の会計士のなかにも同じような方が多いのではと思います。
L:それでどうなさったのですか?
A:仕方がないのでわかっている部分をminutes(議事録)に書いて送り、不足分を他の出席者に付け足してもらいました。周りの日本人従業員は帰国子女や留学経験者ばかりで、“出来ません”と言える雰囲気ではなかったのです。毎日の仕事で英語に格闘する傍ら、休日や通勤時間を利用して英語を猛勉強し、英語はスカイプ英語を毎日1時間、平日は電車の中でリスニング学習、土日のどちらかも英語漬けという状態でした。そうこうしているうちにTOEICは910点になりました。この時点でTOEICのための勉強はやめました。
L:それ以来TOEICは受けていらっしゃらないのですか?
A: はい。日本人はたとえばTOEIC900点以上など、わかりやすい指標で評価したり、人をジャッジしようとする方が多いように思います。でも、実践力を高めるために必要なのは試験の点数ではありません。
ただ、TOEICは基礎力が無い方が基礎固めに利用するのはとても良い試験だと思っています。出てくる単語もスタンダードなものが多いですし、文章も癖がありません。人間、目標が無いと怠けがちですが、TOEICを定期的に受験し、それをペースメーカーとして自習することで、知らず知らずのうちに基礎力がついてくる、良いツールと思います。ただ、900点に到達した時点で、もう基礎固めは卒業かなと思ったのです(笑)。
L:はい。弊社でもTOEIC自体の点数アップを目的にするよりも、力試しとして使ってみてはとおすすめしています。では、実践力を高めるために効果があった方法を教えてください。
◆英語環境をつくって生きた英語を学んだ。
A:それはもう、英語環境を作るという事ですね。英語でしかコミュニケーションをとれない人と話すのも良いです。必ずしも外国に行く必要などありません。それよりも日本にいながら海外の会社で働いているのと同じような経験をした方が良いですよ。
実際に私は海外駐在経験がある方とお仕事をすることが多いのですが、3年程度英語圏に駐在していた方に、海外との電話会議の参加を依頼したら「英会話ができないので」と断られたこともあります。海外で暮らしていても英語環境がつくれないと、生きた英語が出来るようにはならないのです。
例えば日本の大手法人から海外に派遣される場合などは、海外進出している日本企業がクライアントだったりしますから。場所が海外なだけで、公私ともに日本人同士の付き合いが主体になってしまうという事がありがちです。
L: 確かに、英語がペラペラになるには留学しないとダメ、とおっしゃる方もまだいらっしゃいます。そうではないのですよね。人それぞれ状況は違いますが、自分を切羽詰まった状況に置く事が大事です。今は良い情報やツールが手に入りますから、使い方次第でどうにでもなりますし。留学なしでネイティブ並みの英語力を身に付けたAさんがおっしゃると非常に説得力があります。
L:ここからは、英語を学習している人がよく疑問に思うことを質問させていただきますので、Aさんのご経験やお考えをお聞かせいただけますか?
【Question1】 果たして英語ができるメリットとは?
英語ができると「おいしい」つまりとても有利であるという話をよく聞きます。
英語ができることで良い目にあっていると感じることがあれば具体的に教えてください。
【Answer】
A:はい、私は英語を習得する前と後では世界が180度変わりました。仕事も価値観も人脈も全く変わったのです。
◆英語の情報を活用できるのは専門家として大きなアドバンテージ。
直接経験してみて感じましたが、仕事の幅が広がります。たとえば、英語が出来なければ日本の案件しかできないのですが、英語が出来れば海外案件に関与できますし、海外の方とも働けます。専門家の世界は日本語で出ている情報は限られています。日本語の何十倍もある英語の情報をすんなり読んで活用することができます。
◆世界中にビジネスパートナーが出来る。
とても良かったなと感じているのは、お客様が海外になるだけでなく、海外の会計士とビジネスパートナーとしてお付き合いが出来ることです。自分の人脈が海外にまで広がったのです。海外人脈が出来ると、その人たちのお客さんを紹介してもらい、海外の仕事が出来る様になります。外国人が困っている時に相談にのり、感謝され、やりがいを感じます。仕事やプライベートで海外に行く時に現地で会って一緒に食事をすることもあります。海外の同業者と自らネットワークを駆使してプライベートでも付き合えるのはとても楽しいですよ。
◆日本で仕事をする外国人を直接サポートし、日本にも貢献できる。
日本人として、外国人が日本に進出してきてくれるのは素直に嬉しいものです。それを直接サポートできる機会が得られます。日本に進出する外国人に頼られているという達成感が得られると、自分も日本に貢献できているように感じます。また、相談事を自分に直接連絡してきてくれるのが嬉しいのです。そこが働くモチベーションになり、ますます英語力を伸ばしたいと思うようになりました。このような好循環が出来るのです。一回高みを超えるとあとはどんどん拍車がかかるものなのです。
【Question2】 英語ができない事で失うものとは?
英語が出来ないことによる損失について、グローバルなお仕事をしてきたからこそ感じられる事があれば教えてください。
【Answer】
◆ビジネスパーソンとして信頼されにくい。
A:外国人に対してコンサルティングを行うなかで、英語が出来ない同僚は会議のなかでも発言できません。私が英語に訳して外国人のクライアントに説明するのですが、日本語でしかコミュニケーションをとれないコンサルタントはやはり信頼されにくいです。相手の外国人は私にばかり話しかけてきますから。
◆高いスキルを持っていても活かせない。
外国人のお客さまと人間関係を構築できないのです。せっかく良いスキルをもっていても英語が出来ないと自分の考えをきちんと伝えられません。これではスキルがないのと同じ事で、こうした事が起きてしまうのは非常にもったいないですね。
◆沢山の素晴らしい多様な世界に気づく機会を逸する。
また、日本という枠を超えた広い世界があるのに気づく機会が限られますし、日本とは違う価値観やビジネスが沢山あるのに、なかなかそれを使いこなす事ができないという事もあります。こんなに素晴らしい多様な世界があるのに。言葉で伝えきるのは難しいのですが、一度体験してしまうと元の世界には戻れません。
L:やりがいを感じていらっしゃるだけに、目の前で現実に損失が生じてしまうともどかしい思いをなさいますよね。
A:日本の事をきちんと伝えたり、アピールすることが出来るという事もやりがいの一つです。年に一回海外で開催される大きなカンファレンスに出席しています。初めて出席したのが5年ほど前ですが、同僚がいろいろな外国人に私を紹介してくれました。周囲の外国人が非常にオープンに接して下さったので、私は一生懸命に日本の事を話しました。その時、こんなに日本をアピールすることができて何と素晴らしい事なのか、何と素晴らしい機会を得たのか、一度ではなくまた経験したいと思ったのです。自らのモチベーションが高まった瞬間です。
L:日本のどのような点をお話になったのでしょうか。
A:日本が誤解されていると感じる事が沢山あります。ある時、エジプト人から日本はミステリアスで面白い国だけれど、ホスピタリティがないといわれたのです。日本では「おもてなしの精神」などと、日本人のホスピタリティに誇りを持つ人が多い中、外国人にこのように思われているのかと、とても驚きました。
L:お国柄もあるのかもしれませんが、意外ですね。
A:はい、私は思いあたる節があったので、このように話しました。
「日本人はすごくサービス精神が旺盛ですし、きめ細かい気配りができる人が多いです。ただし、恥ずかしがり屋ですし英語が出来る人もまだ少ないのです。だから初対面の外国人に笑顔で応対できないのかもしれません。日本人は笑ってくれないし、自分から積極的に話してくれないので、そういう印象を受けたのかもしれません。」
L:日本にいると「日本人はホスピタリティが高い」といった価値観を持ちやすいですが、海外の人と話すと必ずしもそうではないですよね。英語が話せるとこのような外国人の考えや文化的な背景を知る事が出来ますし、固まった考えを持たずにいられるという良さもありますね。
A:また、ある時は日本に忍者はどこにいるのか?と聞かれた事があります。信じられない様な話なのですが本当です。
L:忍者は海外で人気があるようですね。漫画も流行していると聞きます。他にもエピソードがありますか?
A:京都マニアのイタリア人の知り合いが出来ました。英語で会話をしていますが、私の知らない日本を紹介してくれることもあります。私よりも京都に詳しく、先日は「こんど京都を案内してあげるよ」と言われました(笑)。
このように英語によるコミュニケーションを通じて日本を愛し、日本に沢山訪問してくれる人がいるという事を知る事ができました。自分の自信になりますし、こうした原体験ができる事は英語へのモチベーションが高まる理由にもなっています。またコミュニケ―ションをとり、世界に仲間をつくりたいと思いますから。
【Question3】 AIがあれば英語問題は解決できる?
AIが発達するから英語は出来なくても良いという話を聞くようになりました。これについてどう思いますか?
【Answer】
A:機械的業務はAIでサポートされるでしょうが、やはり人と人との直接のコミュニケーションはAIが発達しようが変わらないと思います。スマホをかざせば英語が流れて来れば便利になりますが、目の前の相手とのダイレクトコミュニケーションは欠かせません。
AIはアルゴリズムの集積だと専門家から聞いた事があります。人間の脳は思うほど単純ではありません。人間は会話をしながら相手の表情をみて言い方を変えますよね。相手の気持ちを読みとったり、思いやることを大事にします。言語のコミュニケーションはAIで代替できるほど単純ではないと思っています。
L:英語はしょせんツールだという話も聞きます。ご意見はありますか?
A:確かにツールなのですが、だからAIに任せておけばよいという事でもないと思います。
L:それを言うと会計もツールですよね。私たちはツールをどのように使ってコミュニケーションをはかるかという点を御伝えしたいと思っているのです。
A:はい。英語が出来る事のメリットは人と人とのインタラクティブなつながりを可能にすることです。コミュニケーション力が高くてもツールを使いこなせないと高いコミュニケーション能力を活かせません。本当はネットワークづくりが上手な人が、英語ができないばかりにコミュニケーション力を活かせないと言う事があります。ですから、もしツールなので必要ないとおっしゃる方がいるとすれば、そこまで割り切るのは極端な考えではないでしょうか。
ツールだけでもコミュニケーションだけでも不十分。二つはリンクしているのですから。英語を学習するときにベースとなるコミュニケーション力があるからこそどんな言葉遣いをすべきかがピンとくるという事もあります。
L:では、こちらの質問です。
【Question4】 会計人にとっての英語とは?
独立している公認会計士です。私たちの仕事はつぶしがきくため、会計、税務の知識さえあれば英語がなくても生きていけると思うのですが、それでも英語を身に付けたほうが良いでしょうか?
【Answer】
A:これはその人の人生観、どういう世界で仕事をしたいかによるでしょうね。
日本のマーケットだけで一生を終えることも出来ますから。ただし、会計の世界はどんどんボーダレスになっています。自分の職場が海外とかかわりができる可能性がある、という事は考えておかなければならないと思います。
こうした中で英語が出来ないままですと、今後の人生の思わぬところでつまずくことがあるのではないかと感じるのです。ボーダレス化する世の中で、人生の選択肢が狭まると思います。
会計の世界は今後英語なしでは選択肢が狭まると感じています。
【Question5】 まずは一般ビジネス英語から・・・は遠回り?
会計や税務の英語を学習する前に、まずは一般ビジネス英語から学習した方が良いと英語学校で言われました。遠回りではないでしょうか?
【Answer】
A:いかに専門職であろうが日常のビジネスで英語を使うという事ですから、テクニカルタームさえ知っていればそれで済むということはないと思います。会計税務のミーティングではいきなり「税効果会計は・・・」、と話がはじまる事はありませんから。ビジネス英語がわかっていないとテクニカルタームを出しただけで終わってしまいますよね。
ある程度コミュニケーションが成り立つ程度の一般ビジネス英語が土台にあって、そこに付け足していくという考え方ではあると思います。
ただ、会計関連の仕事に携わる人が日常的に使うビジネス英語となると、言い回しの面でやはり特殊な英語にはなりますね。業界人が日常のビジネスで困らないだけの英語力をつけるとなるとあまり教えているところはないですね・・・。
L:弊社がありますよ(笑)。
◆英会話はテニスのラリーと似ている。
L:それでは、最後に英語学習者の方に向けて一言お願いします。
A:一定期間頑張ると出来るようになる瞬間があります。そこからは自力でコンスタントに英語力を伸ばしてゆけます。その境地に達成するには一定期間が必要で、そこを超えると自立して試合に出て、自ら力を高めていくようにするのになれるのです。
テニスで例えると、ラリーが続くようになると試合に出られるようになり、そうすると練習しながら自分で力も伸ばしてゆけるという事になるのです。
L:おっしゃる通りです。聞き取れるようになると、より人から学べるようにもなります。
A:これだけやったから十分という事ではなく、終わりはありません。私も常にブラッシュアップを意識しています。
L:ありがとうございました。
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