2017年末に議決権行使助言機関のグラスルイスが主要上場企業に対し、女性の役員起用を求める方針を打ち出しました。女性の取締役や監査役がいない場合には、2019年より会長または社長の選任議案に反対を推奨する方針だそうです(例外要件あり)。他の助言会社も続く動きをみせており、これを受けて女性役員登用を検討する企業が増えています。
企業の中長期的成長の上で女性役員の起用が重要と捉える動きがある一方、このような意見も耳にします。
『現時点では管理職以上になりうる女性の育成は道半ば。少ない母集団の中から無理やり役員を選出するとなると、能力のない者が役員に就任することになる。』
『早期に問題解決の方法があるとすれば、社外取締役や監査役の女性登用しかありません。「女性弁護士や学者のうち、経営陣のやり方に異を唱えるリスクのなさそうな人物の奪い合いになる」と、女性活躍企業が有名無実化するリスクを警告するアナリストもいます。』
これをお読みになって首を縦に振った方もいらっしゃるかと思います。
社外役員という事で言いますと、私の周囲には適任者と思われる優秀な女性が何人もいます。
アドバイザーとして企業に関与している事もあり、そういう方から相談を受ける事があるのですが、話をしていて直接間接問わず、「余計な事を言わず黙っていてください」という趣旨の依頼のされ方をしていると感じることが割とあります(職務を果たすつもりであれば、最終的にこうしたオファーを引き受ける事はないでしょうが。)。
それにしても会社が“黙っていてくれそうな人”を探すのは何故でしょうか?
本当に会社のためを思い、会社の役にたつことを言ってくれるのであれば、会社だってそちらの方が良いに決まっています。少なくともそういう経営者は一定数いるでしょう。
理由の一つに、候補者とのコミュニケーションがうまくとれないという事があると思います。
「社外役員にはそれほど期待していない」「役に立たなくてもいいから、せめて邪魔しないでくれ」「的外れな話で役員会をかき回される位なら、黙っていてくれた方がまし」というような発想です。実際そのような意見があると聞いています。
とはいえ役員人事は「人」の問題。そして取締役会の機能は、企業価値を向上させるべく中長期的な視点で戦略を練る事です。従って、この目的に適したメンバーで構成される必要があります。
この視点から社外役員に対して何を求めるのかを明らかにしたうえで人材を探している会社もあり、そのような会社と接する機会があった場合には「良い会社だな」と感じます。
一方で社外役員側はしっかりと実績を残してゆくことが必要です。
会社側はたとえ的外れな意見であっても役員に言われた以上は対応しなければならなくなります。このことを踏まえ、会社にとっての重要論点にフォーカスして発言し、かつスピーディな判断を行う。不明な点は納得がいくまで質問し、自己の判断に基づいて独立の立場で意見を言う。
このバランス感覚を養いながら職務にあたれば、黙っていてくれと言われる事も減っていくのではないでしょうか?
両者のマッチングについては、会計士協会、弁護士会などの業界団体や仲介斡旋をする企業もありますが、まだまだこれからのようです。私自身は特定の資格要件を満たすことに留まらず、現在以上に一人ひとりの特性にフォーカスする時代が来るとよいと考えています。
昨今、企業のガバナンス向上への取り組みについては「実質」が求められています。
今後は益々、「形式」だけでなく「実質」を向上させるためには何をすべきかについて、関係者間で議論する事が求められる時代になるでしょう。
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