これからのビジネスコミュニケーションの在り方を考える。
このインタビューサイトでは、英語を使ってお仕事をなさっている会計人の方を中心にお話を伺っています。今回はNさんです。
監査法人からM&Aアドバイザーというキャリアを経て、事業会社で働くという経歴をお持ちのNさんが、いま目指しているのは、日本企業に活力を与えるようなコンサルティング。ご自身の脚で立ち、キャリアを築いていらっしゃる素敵な女性です。今回はオフィスを飛び出し、厳かな雰囲気漂う学士会館で、お話を伺いました。
L:こんにちは。今日はよろしくお願いします。はじめに、Nさんが英語を学ばれたきっかけを教えてください。
N:こんにちは。よろしくおねがいします。
はい、公認会計士試験に合格して、会計士として差別化するにはどうしたらよいだろう、このまま就職して良いのかなという気持ちが芽生えました。考えた結果、1年程カナダに語学留学することにしたんです。監査法人へは入所を一年遅らせました。
最初の3ヶ月は語学学校に通って。少しやってみたら欲が出て来て、せっかく会計士として働くのだから、専門的な話にも対応出来る様になりたいなと思って、次の3か月はBCIT(※)に通いました。McGillのテキストを読んで定期的にテストがあったりと、いろいろ大変でした。
※BCIT:British Columbia Institute of Technology ブリティッシュコロンビア工科大学。仕事の内容と直結した実践的なクラスで就職のために大学を卒業してからBCITに通う人も多い。工科大学であるが、経営や会計に関するクラスも提供している。
※McGill:McGill University カナダで最も歴史ある大学のひとつ。
■フィードバックがあるとモチベーションがあがる
L:Nさんは英語を短期留学から始められたのですね。 印象に残っている出来事はありますか?
N:会計や監査以外に、コミュニケーションのクラスを取っていたのですが、最後の授業の時、1人1人がプレゼンテーションをすることになったのです。慣れない英語の上、自分の意見を人前で話すということに慣れていなかったため、とても緊張しました。それで、どぎまぎしながら何とか話し終えたという感じになってしまったのですが、先生が「伝えたいことがよく表現できているよ」と励ましてくださったのがとても嬉しかったのです。それで益々やる気になりました。
L:やはりポジティブなフィードバックが返って来るのは励みになりますよね。帰国なさってからの事を教えていただけますか?
N:監査法人に入って、アメリカの会計基準を適用している会社の担当をすることになりました。
カナダへの語学留学で、日常会話は話すことができるようになってきたものの、それ以上のことを英語を話す機会が少なかったのです。それで、今後仕事の領域を広げて行こうと思ったら、話せるようにならなくてはいけないなと思って。英会話学校に通ったり、個人の先生のプライベートレッスンを週2回受けたり、英字新聞を読んだりと英語に触れる機会をできる限り増やそうとしました。
L:留学だけでは十分ではないと感じられたのですね。試行錯誤なさいましたね。その後に就職なさったM&Aアドバイザーではどのようなお仕事をなさったのですか?
N:国内海外のディールを担当するようになったのですが、またしても思っていたよりも英語を使う機会が少なかったのです。それに、私が関わった海外の案件では、クライアントから通訳のような仕事を期待されているなと感じることがあって。
L:その後テクノロジー系の事業会社に移られたんですよね。
N:はい、事業会社でクロスボーダーのM&Aを担当していました。海外の提携先や買収候補となる会社の事業内容を調べたり、海外出張にもよく行きました。やはり自分の会社のことなので、自分事として英語できちんとコミュニケーションがとれることが求められました。一番英語を使った時代です。
■プライドよりも理解が大事
L:コミュニケーションについてですが、英語でお仕事をする上で気を付けていらっしゃる事はありますか?
N:前もってきちんとしたアジェンダを用意しておく事、電話会議では重要な事は後でメールで確認すること、ロジカルに伝えること。この3点には気を付けています。日本語とか英語とかの問題ではなく、仕事をしていく上で基本的な事だとは思うのですが、母国語ではない英語での場合は思い違いということが起きがちですので特に大事にしています。
きき取れなかったと思われたくないなぁという変なプライドを持つよりも、相手の言っている事をきちんと理解することを心がけています。あとは、直接お会いすると何故かその人の言っていることが理解しやすくなるんですよね。ですから本格的なお話に入る前に、なるべくお会いする機会を作っていただくようにしています。
L:英語というのは勉強ができる、出来ないという事とは違いますし、英語が出来るようになるステップも日々の生活のなかでのちょっとした小さな挑戦の積み重ねから始まるものですよね。これは大変だった、という事はありますか?
N:私が1人で、相手が複数の場合です。出来ないのでやらないという事ができれば本当に楽なのですが、会社勤めをしているとどうしても避けられないという事がありますので、頑張りました。そういう場合は「さきほどの内容はこれでいいですか?」とフォローアップの意味を込めて再度メールや電話で確認をします。
■ 英語が出来たから世界が広がった
L:英語が出来たからチャンスが得られたというようなご経験があれば教えてください。
N:そうですね、沢山ありますが(笑)海外出張にいく機会が得られ、そこで良い会社、悪い会社を直接自分の目で見る事が出来た。と言うのがほんとうに得難い経験だったなと思っています。
”私が日本で見ていた世界というのは閉じられた狭い世界だったんだ!”というほどの衝撃を受けたのです。英語が出来なかったらこのような気づきは得られなかったなと思います。まず飛び込んでみるのが大事ですよね。
L:良い会社だなと感じるのは具体的な例を出すとすると、どのような部分に対してなのでしょうか?
N:はい、たとえばM&Aの際には、買収後のガバナンスやあるべき姿を想像しながら手続を進めていきます。その時に、「社外の役員や専門家たちとの間に緊張感があって、そうした社外の人たちから意見をいただいて経営しているよ。」とかその結果、「具体的にこのような意思決定をしました。」というお話を現地の社長から聞くことがあるのです。
このような話を日本の会社のマネジメント層の方々から聞く機会は少なかったものですから、日本の会社ももっと社外の役員や専門家の意見を取り入れていけば、村社会から脱せられるかも、と思いました。
L:私としては、その点に関しては日本にも数少ないのかもしれないけれどもありますよ、と言わなければなりません(笑)。ただそうであるならば、密室で決定するよりも様々な立場の人から幅広く意見を聞き、参考にして決めてゆくという視点をもつことで、有利にビジネスをすすめて行けそうですね。それがダイバーシティの本来の意味ですから。
10年以上にわたるキャリアの中で海外企業をみて特に印象に残っている点はありますか?
N:海外のマネジメント層の方々は、プレゼンテーションが上手だなと思いました。
それは自分の言葉で説明しているということなんです。文章を書くにしても話をするにしても、論理展開がとにかく上手で。
日本から上司と一緒に海外に打ち合わせに行ったときの事なのですが、日本語で聞いていても上司が何を言いたいのかがわからなかったのです。同時通訳の方がとても困っていらっしゃって。日本では阿吽の呼吸で物事が伝わってゆくと思うのですが、こういう場面ではやはり論理展開がきちんとしていないと難しいものだなと感じました。それで私も意識するようになりました。
L:実はそういう話、よく聞きます。良いか悪いか、正しいか間違っているか、ではなく自分の意見を人前で発言する、ディスカッションの場がもっとあると良いですよね。
N:はい、自分の意見を持っている人は人の意見にも耳を傾けられるんじゃないかと思うんです。
L:会議の仕方にも衝撃を受けられたのですよね。
N:とある人がある課題について「話をしましょう」と会議の申し出をしたところ、現地の外国人社長が、「話そうというよりも結論を出す、だろう」ときっぱりとおっしゃったんです。
それを聞いてはっとしました。目的意識がしっかりしているなって。目的意識が薄い仕事の仕方に疑問を持つ人が当たり前に、しかも沢山いるというのは英語が出来たからこそ知る事が出来たのだと思います。
日本では、“実務は現場に任せる”という事がよくありますよね。海外で経営者の方に質問をしたとき、「具体的な話は後で担当者に説明させますから」というような事がほとんどなかったのです。普段のやりとりも、決定権をもっているマネジメントとメールでやりとりするのが当たり前です。海外の経営者は日本の経営者よりも実務の細かいところを含めて実情を把握しているものだなと感じました。
ですから会議に出て来る人数も違います。日本企業はマネジメントの他に現場の実務担当者など10人とか多いと20人が会議に出席します。場合によっては責任者が出て来ない事もあって「後で確認して連絡します」となります。海外の会社は社長、COO、ディールヘッド、リーガルヘッドの3~4人が会議に出て、その場で意思決定をします。権限を持っている人が会議に出席するのでその場で決められるという点が強いなぁと思いました。
L:判断する人が後ろに隠れているのですね。
N:それがスピード感の差となって表れているのだと思います。グローバルに出て競争しようとしているのに、このマネジメントスタイルではついていけないだろうなと思いました。とにかくスピードの面で圧倒的な差があります。自らみて自ら判断する、という意識が徹底されています。
テクノロジーの業界にいると本当に感じるのですが、アメリカなどはスピード勝負で開発をしています。開発の仕方も現在ベテランの方がやってきたものとは全く異なるやり方をしています。日本の常識が通じないという事もあるのです。実際に事業提携の話があった時に上司と一緒にいったのですが、西海岸式のやり方を知らなかったと驚いていました。日本以外の顧客の事を知らずにグローバルに通じるプロダクトやサービスを発想するというのは難しいと思います。
L:スピードというお話を聞いて思いだしたことがあります。従業員15人ぐらいの会社でSEをしている人がおっしゃっていたのですが、英語の文献を調べながら開発をしているそうです。日本語に翻訳されてくるには少なくとも半年かかって、その時にはもう情報としての意味が無くなってしまっているというお話をされていました。
■能力の定義が変わって来ている
N:英語ってITスキルと似ていると思うんです。現在50歳代、60歳代の方はおそらくゴルフに行くなどしていろいろお客さんの言う事を聞いて営業をしてきたのだと思うのですが、今はスマホの時代になっています。ですから、そういう営業スタイルが今後も通じるかというと必ずしもそうではない。能力の定義がかわってきているなと感じています。やはりこれだけ情報技術が発達してくると、経営者自身もコミュニケーションツールを使いこなしていかないと。
L:おっしゃる通り、変化に強くなるには新しいものや良いものはどんどんとりいれ、いろいろな経験をしておくことが大事なんですよね。そうすることによって一人ひとりの人生が良いものになってゆく。そんな風に思います。英語が使えるようになるとこれから先の人生はもっと面白くなると思います。今日はありがとうございました。
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