株式持ち合いが問題視される本当の理由

2018.03.15


先日、International Corporate Governance Conference -国際コーポレートガバナンスコンファレンスに出席して参りました。その際に何度も話題に出て来たのが、政策保有株式(株式持合)について。日本企業といえば、という事で以前から度々問題になってきた論点です。

コーポレートガバナンスコード(以下、CGコード)には「保有する場合は理由を明確にせよ」との規定があります。また企業会計(IFRS)上も持合株は貸借対照表上、時価で開示されるようになりましたので、持合解消の動きは広がりつつあります(制度詳細は末尾に記しました)。

コンファレンスの際、機関投資家の方から出た意見は以下のようなものでした。
・持合の問題は少数株主との利益相反。持ち合いに相当する分だけサイレント株主が増加する。
・持合はパートナーシップを続ける上での人質。経営者は合理的判断が出来なくなる。

 たとえば特定のサプライヤーと持合を行っている場合、他のサプライヤーとの取引の選択肢が無くなる。

 持ち合うならば合理性を説明せよ。
・持合には財務的合理性はない。処分するならばいつまでにというターゲットを定めるべきである。
・アメリカには政策保有株式に関する規定があるが日本には無い。何故か。
・現行制度上、持合は上位30社のみが開示対象である。

 平均的企業はこれよりはるかに多い持合株式を保有している。

 投資家が実態把握を行えるよう全件開示すべき。

主に議決権行使の際の弊害が問題視されています。
具体的には、経営者に友好的な株主が増えると持ち合い株主以外の意見が通りにくくなり、経営者へのプレッシャーが低下する。このことが経営効率を悪化させるというものです。

確かに、資本主義を突き詰めてゆくと、持合を解消せよという流れになるのは想像できるところではありますし、投資家としては議決権が空洞化して経営者へのプレッシャーが減少していないかの確認が必要です。あまりに持合が多い企業に対しては企業価値評価の際にマイナス評価をするという事もあるかもしれません。私自身、開示書類にずらずらと持合株式が並ぶのをみると、何だかゲンナリした気分になるのも事実です。(実証研究によりますと、持合の結果、企業パフォーマンスが悪くなるという明確な結論は得られていないようです。)

とはいえ、悪いのは持合制度そのものというよりも、持合の結果、経営者が他の投資家の話を聞かなくなる事や不適切な行為が行われる事にあり、その様な事が起きた場合に持合のデメリットが顕在化する、という事なのではないでしょうか。

「中長期的企業価値向上」のために必要なのが株主と経営者との対話です。経営者が中長期的企業価値向上にコミットするのであれば、株主側にも中長期的視野で安定的資金を供給するという視点が求められてくるでしょう。そういう意味では今回は企業経営者からのコメントが少なかったように感じます。

株主と経営者の双方が長期のコミットメントを保ち、信頼関係を築くための手段をどのように確保してゆくのか。まさにそのための模索の様子を感じ取ることが出来たカンファレンスでありました。

CGコード【原則1-4 いわゆる政策保有株式】
 上場会社がいわゆる政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で主要な政策保有についてそのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明を行うべきである。上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための基準を策定・開示すべきである。

IFRS(国際財務報告基準)
持ち合い株式は貸借対照表上で時価で評価され、評価損益はOCI(※)に分類すると指定することが出来ます。この場合は売却しても(OCIの増減として処理される結果)売却損益は計上されず、当期純利益は影響は受けません。
※OCI:Other Comprehensive Income その他の包括利益

有価証券報告書上での開示
投資家に注意を喚起するため、有価証券報告書の「コーポレート・ガバナンスの状況」に、“特定投資株式の保有理由”を記載します。

筆者:KM
ルミナスコンサルティング株式会社IFRS関連業務(website)会計英語コーチング等により企業及び人材のグローバル化を支援しております。

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