【ガバナンス・管理会計】
経営の質を読み解くための財務諸表の使い方
企業が開示する情報には経営者や会社の姿勢が反映されています。
今回は企業に関わるステークホルダーの方向けに、開示情報の一つである財務諸表を読み解く上での注意点を記載しました。
現行の会計基準では、会計方針の選択や会計上の見積りの決定において、経営者にある程度の裁量を認めています。
代表的なものとして、減価償却方法の変更、耐用年数の変更、減損損失の計上等を挙げる事が出来ます。そしてこのような裁量的行動が認められているが故に、経営者は、業績が好調な時は利益を抑える、不調な時には利益を捻出する、近い将来に大きな利益を計上するため、当期に利益を圧縮して膿を出し切るといった事を一定範囲で行うことが可能になります。
こうした行為は“利益調整”と呼ばれます。
もちろん、これらは会計基準の範囲内で行われるものですから、粉飾決算や不正会計ではありません。また、会計方針や見積の変更を行う企業のすべてが利益調整を意図しているというものでもありません。改めて見直しを行った結果、より適切な方針に変更するという事もあります。
また、利益調整は発生主義会計のもとで期間配分を変える行為であり、当期の利益の増加は次期以降の利益の減少につながり、長期間でみた利益に与える影響は平準化されます。そういう意味で無制限にではなく、『一定範囲で』行い得るものです。
とはいえ、実務上で行われた場合にはそれなりの影響額になることも多く、利益調整の概念を理解しておくことは、財務諸表を読み解く上で、また経営者や会社の姿勢を判断する上では非常に重要になります。
ではここでいう“経営者や会社の姿勢”、言い換えれば“利益調整を行う理由”とはどのようなものなのでしょうか。『自らの業績を良く見せたい』、『資金調達環境を維持改善したい』、『銀行の財務制限条項への抵触を防ぎたい』、『株価の下落を防止したい』、など様々な理由があります。日本では損失回避のための利益調整が多いとの実証分析の結果も得られているようです。
気をつけなければならないのは、利益調整を行ったからといって、会社の本質的な価値は変わらないという事です。
むしろ、これだけ情報が瞬時に伝わる世界では、小手先の会計方針の変更や見積の変更などで数字を動かしても市場はすぐに見抜いてしまいます。
(その証拠に株式市場でも最近は会計発生高アノマリーも見られなくなっている、という話が聞こえてきますが実際どうなんでしょうね?)
最近また、透明性 – transparency – という言葉がよく聞かれるようになってきています。悪材料が出尽くしていないと思うなら、悪いものは悪いと会社の方から積極的に開示し、市場のサプライズを減らす事に労力を割く。今後はこうした姿勢の企業がますます評価される時代になってゆくのではないでしょうか。
開示情報から得られる情報には限界があるのも事実です。会社のすべてを知る事は出来ません。ただし読み取れる事も沢山あります。利益の額だけでなく質の視点を加えると、また違った視点で会社が見えて来るでしょう。
筆者 公認会計士 松橋香里
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