専門性や文化によって異なる言葉の意味



先日、物理学の本を読んでいたら指標性の話が出て来ました。指標性とは、使用される場面によって違うものを意味するという単語が持つ特性です。物理学では世界を客観的に説明することを試みますが、視点をどこに置くかによって正しいとされる説明の仕方が異なる事があり、そういう意味では完全に客観的な説明はできないと言う事が出来ます。言語学とは一見関連なさそうですが、この意味で言語の持つ指標性と類似しているのだと知り、“なるほど”と思いました。

■あなたは『絶対』と言いきれるか
私達の日常では、同じ言葉を発していても背後にある発言の意図や意味する内容が異なっている、と言う事がしばしば起きています。そしてこれが認識の齟齬が起きる一因となっています。
例えばいわゆる”理系”の世界では例外が無い事を証明できない限り、『絶対に』や『全く~ない』と言う言葉は用いられません。また、有効桁数を念頭におけば、0は0.5未満だし、100は99.5以上です。従って100や0を使ったとしても、そのことは『絶対』や『全く~ない』を意味しません。
いわゆる理系の人を対象に5段階評価のアンケートを行ったところ、1と5がほとんど選ばれなかったそうです。これは1や5が『全く~ない』や『絶対に』『常に』を連想させるためであろう、と当事者であるいわゆる理系の方々が分析なさっているのを聞いた事があります。
ちなみにここで”いわゆる”を付けているのは、私自身が文系理系を分ける事を本来は良しとしていないからです(今回は説明の便宜上使用しています)。

だからといって実社会で、~の可能性が高い、~と思われる、~かもしれない、などとばかり言っていると歯切れが悪く、いかにも自信が無く頼りない風に映ります。場合によっては自分の意見を言わず逃げていると思われるでしょう。だから自信があることを示すために、たとえ100%の確信がなくとも言い切ろうとするような事がおきます。見ていると、言い切る事にあまり抵抗もないようです。私自身はこれをどちらが良い悪いではなく、習慣の問題だと捉えています。習慣の問題ですが、自分とは異なる立場から発せられた言葉かもしれない、と少し立ち止まって考えてみることが大事ではないでしょうか。

■文化によって違う言葉の意味
また、同じ単語でも文化によって意味する内容が異なり、それが認識の齟齬に発展する事もあります。このような例として会計上で話題になるものの一つに“probable”の意味合いがあります。日本で対応するのは“発生可能性が高い”と言うことばですが、いったい何%なのかと実務でちょっとした混乱を招き、各国のメディアや監査法人でも調査が行われました。海外の監査法人の調査結果によると、IFRS上はmore likely than notつまり50%超ですが、米国基準では75-80%程度と言う事です。

The term “probable” has a different meaning under US GAAP (where it is generally interpreted as 75-80% likelihood) and IFRS (where it means more likely than not—that is, greater than 50% likelihood).‐PWC 

これは、同じように“probable”であるものが選ばれているとしながらもスクリーニングの基準が異なるため、一方では50%超の発生可能性のものが抽出され、他方では75%‐80%以上の発生可能性のものが抽出されるという事を意味します。別の調査ではオーストラリアでは60%程度、他の国ではまた異なる値が出ています。
辞書で調べるとprobableの意味はlikely to be true or to happenですからIFRSの定義は保守的な印象を受けます。このように同じ言葉でもニュアンスの違いがある以上、無理に日本語に訳そうとすると結果として意味が変わってしまうことになりかねません。これもまた、自分が伝える言葉を相手は違う意味で理解するかもしれないと考えるには良い材料です。

Kaori Matsuhashi


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