やさしいIFRS:業績の読み間違いを防ぐには?-会計処理編

会計・財務
2018.08.21


本日は、IFRS財務諸表を利用する際に、「業績の読み間違い」を防ぐための代表的留意点について。前回は表示でしたが、今回は会計処理上の留意点です。なお、理解の助けとなる事を優先し、細かい基準の規程の解説等は割愛しておりますのでご了承ください。

どの会社にもあてはまりそうな論点として、以下の4つを挙げることができるでしょう。

1.のれんを償却しない。
IFRSではのれんを償却しないが、日本基準は一定期間にわたり定額償却する。
有名な論点ですので多くの方がご存知でしょう。ただし、のれんを償却しないから(業績が良くなって)良いのかというと、必ずしもそうではありません。
毎期定額を償却する日本基準に比べ、減損時のインパクトが大きくなる事を意味します。諸刃の剣なのです。経営のスタンスが現れやすいところでもあり、場合によっては会社が短期的志向に陥る可能性も含んでいますので、利用者としても日本基準以上に減損リスクについての注意が必要となります。


2.金融資産の減損について、信用損失モデルが採用される。
IFRSでは、減損の検討の際に、将来予想に関する合理的かつ裏付け可能な情報の考慮が必要になります。これに対して日本基準では、将来予測を考慮せよとの規定はありません。
売上債権の減損(=貸倒損失)の算定においては、残存期間における予想信用損失を用いる方法が存在するものの、両者の考え方の違いについて注意しておいて損はないでしょう。


3.オペレーティングリースの借手の資産・負債が認識される。
新基準IFRS第16号の下では、たとえオペレーティングリース取引における借手側であったとしても、原則としてすべてのリースについて資産、負債を認識します。
これに対して日本基準では、オペレーティングリースに分類された場合は資産負債を認識しません。従って、業種によっては、日本基準の場合と比べ、計上されるリース資産及び負債の金額に大きな差異が出るでしょう。
※新リース基準は2019年1月1日以降開始の会計年度から適用となります(一部早期適用可)。


4.金融商品(株式)について、売却時に純損益認識が行われない場合がある。
株式の評価について、IFRSでは保有期間中に毎期の評価額の変動をその他包括利益(OCI)で認識すると決定したものについては、当該株式の売却時にも純損益を認識しません(これを「リサイクリング無し」、といいます)。
これに対して日本基準では売却時に「純損益」として一時に認識が行われます(リサイクリング有り)。
純損益情報を企業価値評価に用いる際に、評価差額や売却損益を純損益から除外することがありますが、こうしたニーズを考慮した場合にはIFRSのほうが利便性が高いといえるでしょう。

注:2018年8月5日現在有効な会計基準を前提としています。

執筆:公認会計士 松橋香里
ルミナスコンサルティング株式会社IFRS関連業務(website)会計英語コーチング等により企業及び人材のグローバル化を支援しております。

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