『Audit dead in a decade? 』
タイトルは、アメリカの専門誌であるaccounting TODAYより引用したものですが、衝撃的なタイトルです。ニューヨーク大学教授である David Yermack氏が、監査の専門家はここ10年でいなくなるかもしれないとの見解を示しています。
専門家としての監査人がいなくなるどうかは別として、AI、ブロックチェーンによって監査の役割が劇的に変化するであろうというのは、もはや共通の認識でしょう。ブロックチェーンの技術と会計帳簿は親和性が高く、遅かれ早かれ活用される時代が来るのではと私は考えています。
記事にはこうあります。
“The distributed ledger reduces the need for audit by 97 percent,” he said. “Auditors in the future will be competing on the basis of productivity, which will essentially mean who has the fastest hardware and software. And fraud, in the classical sense, will be all but impossible.”
分散帳簿が実現すれば、監査の必要性はほとんど(97%)なくなる。そうなると将来、監査人は生産性を競うようになる。それは本質的には誰が最速のハードウェアとソフトウェアを持っているかということを意味する。そして古典的な意味での不正を行う事は、ほぼ不可能になる。
このDistributed Ledgerというのは新しい用語で、分散台帳(帳簿)の事ですね。分散台帳を作成する技術を、Distributed Ledger Technology、略してDLTと言います。分散台帳(帳簿)が実現すると、サーバーで中央集権的に管理することなく、各拠点が同じ情報を共有し合えるようになります。
米国ではAICPAが監査におけるAIの重要性をよく認識しており、監査手法を劇的に変化させるための施策を講じ始めたようです(その名も“Dynamic Audit Solution”)。また、事後的に監査をするのではなく、リアルタイムで継続的に監査を実施するソフトウェアを開発している企業も登場しているのだそうです。
監査人の役割については次のようなコメントがありました。
“An auditor’s job has two parts,” said Lazanis, who is the founder of a paperless firm, Xen Accounting. “First, to provide independent verification of third-party data, but also to apply accounting standards, and use judgment to verify that the record is valid and accurate. The audit role will shift more to the second part than the first.”
今後は監査人の役割の力点が「判断すること」にシフトしてくる、という事ですが、記事に言われるまでもないでしょう。情報の入手と整理に終始するのではなく、判断力を磨くことが大事だということです。
ブロックチェーンが本格的に活用されるには、まだ多少の時間は残されていそうですが、他方、その実用化を待つまでもなく、システム化できる定型業務は多々あります。労働集約的な側面が強い会計士業界ですが、職人技とされていた多くの部分がAIによって代替されていく時代は既に始まっています。
業種の壁が低くなり、ありとあらゆる企業が競合となりうる。
監査・会計業界も例外ではなさそうです。
筆者:公認会計士 松橋香里
■参照記事:Audit dead in a decade
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