Portlandにて筆者撮影
日本の外から日本を見つめなおす。今回は、ダイバーシティと組織の強みについてお話します。
ポートランドには有名なイベントがあります。それが”Street Painting”。
この活動は、交差点の近くに住んでいた子供が猛スピードで走ってきた車にひかれてしまった事を悲しんだ住民が、車の暴走をストップするための苦肉の策として交差点に絵を描きはじめたことからスタートしたのだそうです。
誰しも自分が日常を過ごす「場」を少しでも良くしたいという思いを持つものです。住民主体で始まった活動は全世界に広まり、近年ではポートランドの住民以外も参加できる形へと発展しています。
個を尊重しながら全体最適を実現する
面白い取り組みだと感じながらも私は疑問を抱きました。街を良くしたいという思いからはじまっているにせよ、個人の自由と全体目標の達成のバランスをどのように取っているのかという事です。たとえば、どこでも好きな場所をペンキで塗って良いという事になれば、街がペンキだらけになり汚れてしまいます。また、誰にも告げずに行えば、活動に反対する近隣住民との争いが生じ得ます。いずれにせよ街が良くなるどころか、かえって住みにくくなるでしょう。
経済界を見ても類似の事例は枚挙に暇有りません。組織力を高めることよりも個人の意向を優先した結果、組織が成長しなくなるという矛盾です。”個人の意向の重視”が悪い方向に働くと、自分の利益をみたすため人を陥れるような行為が生じることさえあります。結果、組織全体の目標が達成できないのであれば元も子もありません。
Portlandにて筆者撮影
すべてはルール次第
組織が全体として機能するには一定の決め事(ルール)が必要です。そしてルールが緩すぎると、メンバーが好きなように行動し全体の統制がとれなくなります。逆にルールが厳しすぎるとメンバーの自主性が損なわれたり、行動が制限され自由な発想が行われなくなります。緩すぎても、厳格すぎても上手く機能しないのです。
それではどのようなルールが良いのでしょうか?
ポートランドのStreet Paintingに話を戻しますと、まず、”自分の住む街を良くしたい” ”子供の命を守りたい”という(一人ひとりの)ビジョンがあり、それを達成するために人々が自発的に”Street Painting”というアクションを起こしています。このアクションが住民や街全体にとって良いものとなるための何等かの工夫があるはず。これだけ成功しているイベントなのですから。
そのように感じ、現地で質問をしたところ、返ってきた答えは以下のようなものでした。
「やりたい事(Street Painting)をやるならば、事前に周囲と合意形成をしてください。そして人のためになることを一つしてください。このような方針で運営しているのです。」
確かに、当事者にとっていくら良いと思うことであっても、他の人にとっては押しつけや迷惑でしかないケースがあります。たとえそれが善意から出た行動だったとしても。この事に気づかせる仕組みがルールとして組み込まれているのだと感じました。なかなか奥が深いです。
このStreet Paintingは、当初はいわば一部の住民が自発的に取り組んでいた活動でしたが、成果が認められ、現在では市が条件付で活動を認めています。周辺住民の合意が取れた後で行政と協議し、実施に至るのだそうです。
また、私が訪れた先では「周囲のためになること」として、ペインティングを行う交差点の一角に図書コーナーや不要な日用品を交換するコーナーが設けられていました。
Portlandにて筆者撮影
ポートランドについて知れば知るほど、この街はトライアンドエラーを繰り返しながら、地域全体で壮大な社会実験をしているのだと思わざるを得なくなりました。おそらくこの運営方針も最初から出来上がっていたものではなく、試行錯誤の結果、辿り着いたのでしょう。
翻って、私たちが日々過ごすコミュニティについて考えた時、一人ひとりの多様な意見をとりいれながらも、全体にとってプラスになるように運営するにはどのようなルールを設ければ良いでしょうか。
たとえば以下のような状況が生じた時、どのようなコンフリクトが起こりうるでしょうか?そして全体最適となる個人の行動を促すルールとはどのようなものでしょうか。
・仕事をしたいときに会社に来て、仕事を終えたら帰りたい。
・自分の専門性を高めるために、会社で働きたい。
・正社員として会社で働きながら、副業もやりたい。
最初から完璧なルールなどできるはずもありません。
まずは一人ひとりが考え、そして踏み出す事が何よりも大切ではないでしょうか。
多様性と全体最適の両立を決定づけるものはビジョンをアクションに移す際のルール。
ですからルール作りは形式的に行ってはならないのです。
筆者:KM
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