Portland5:企業の存在意義とESG,そして管理部門の役割

マネジメント
2018.09.28


日本の外から日本を見つめなおす。ポートランド編は今回が最終回です。
ポートランドへの訪問を契機に、改めて企業の目的とは何かと問うた時、こちらの2人の方の言葉が頭に浮かびました。

利益は会社にとって空気のようなもので、それが無ければ死んでしまう。
けれども、僕らは空気を吸うために生きているわけじゃないだろう?
 – Ben Horowitz(著名なアメリカのベンチャーキャピタリスト)

企業にとっての第一の責任は、存続することである。
 – P.F.Drucker(マネジメントの大家)

もちろん日本でも、松下幸之助氏が「会社の目的は社会貢献にある」、稲盛和夫氏が「全従業員の物心両面の幸福の追求」とおっしゃっていますが、このような所謂「日本的な」考え方が、海外の著名人からも出て来ることが意外であり印象的でもあります。





『・・・存続すること。』

利益はそれ自体が目標ではなく、活動を続けるための条件にすぎない。
だとすれば、活動自体にはどのような意味があるのだろうか?

◆利益か、社会的意義か

営利企業である以上、企業経営の巧拙が「儲け」によって判断され続ける事は否めません。しかし社会的課題が顕在化している今日では、「あなたの会社は社会に対してどんな良い事をしてくれますか?」という問いにも答えていくことが求められる時代になりつつあります。最近、「ESG」が話題になることが増えていますが、こうした潮流を反映しての事でしょう。
※ESG:Environment,Society and Governance(環境、社会、ガバナンス)
 企業等が持続可能な社会の実現に寄与するために配慮すべき3つの要素。


◆果たして企業の社会的責任とは?
このような考え方は今に始まった事ではありません。
CSR(Corporate Social Responsibility 企業の社会的責任)に代表されるような、企業が一定の社会的責任を果たすべきとの議論は従来から存在していました。
しかしどちらかというとそれは、企業が社会の一員として存在する以上、自分たちの利益のみを追求するのではなく、当然社会に対して一定の責任を果たすべきだ、という意味合いが強かったと思います。

企業にとっては必要経費あるいは税金のような位置づけであり、時には企業に対するマイナスイメージをかわすための隠れ蓑として使われることがあった面も否定できないでしょう。いずれにせよ、利益追求の観点からは余計な支出とみなされかねない類の活動なので、企業のイメージアップなどの副次的な効果を狙ったイベントの開催などに力が注がれたことも頷けます。


◆サステイナブルの条件として注目されるESG
これに対しESGは、企業活動のより本質的な部分に関するものです。
本業と直接関係ない事を申し訳程度に行うだけでは足りず、企業活動の全プロセス(例えば原材料の調達、雇用、商品やサービスの販売など)にわたり、環境破壊や社会に害をなす行為を廃し、社会の持続的な発展に寄与することが求められます。企業の持続的な発展は、社会の持続的発展あってのことであり、それに反する企業はいずれ社会から受容されなくなって存続が危うくなるからです。

社会問題の顕在化とともにステークホルダーの姿勢が変化したこともあり、社会問題の解決が企業の重要な経営課題として位置付けられるようになりつつあるのです。実際に、統計調査でも顧客の消費行動、従業員の労働観、投資家の姿勢にも変化がみられている事が報告されています。

ESGの考え方は、CSRのような営利活動を行う上での必要経費的なものとしてではなく、企業の将来の成長にむけた投資を重視する考え方を発展させたものとして捉えることができます。これは、環境の維持や社会への貢献なくして企業の持続的成長はあり得ないとう考え方がベースになっています。

これをさらに突き詰めたものが、マイケル・E・ポーターなどが提唱するCSV(Creating Shared Value)です。社会的価値の実現に向けた事業活動が新たな市場を創出し、競争力の源泉ひいては企業価値の向上につながるというものです。





◆資金の出し手である投資家も変化している。
コンセプトとしては理解できるものの、ESGの効果を経済的に評価するには現時点では困難を伴います。他方、純粋に経済的価値(利益)を重視する立場からも、企業活動に対する見方が変化しているように思います。

従来は目先の利益が最重視され、投資家も経営者もたとえばEPSといった短期的な利益指標に振り回されがちな面がありました。

しかし、目先の業績のために、将来のための研究開発や商品開発を後回しにしたり、ブランド認知を高めるプロモーションへの支出、設備更新や人材育成への投資を削減したり、といった行為に走った場合どうなるでしょうか?

一時的な業績悪化は避けられたとしても、いずれ、顧客が自社商品・サービスから離れていったり、設備の老朽化による故障や事故が発生したり、技術革新の波に乗り遅れるといった事が起きるでしょう。

現在、ますます多くの投資家が、過去や現在の業績と同時に、経営者が将来の持続的な成長に向けて必要な投資を行っているかどうかについて、従来以上に注目するようになってきています。





◆これからの会計、そして経営管理部門の役割
このように企業活動の在り方が社会課題の解決に向かっていくとしたら、経営管理部門の役割はどう変化して行くでしょうか?

現在の企業会計は、企業グループを単位とする連結会計の考え方を基本としていますが、これをさらに拡張し、企業グループをとりまく顧客やサプライヤー、その他協働者をバリューチェーンに組み込み、報告単位とすることが必要になるでしょう。そうしなければ企業活動の実態を把握できない事が増加してきているためです。ここでいう会計とは主として経営管理のための会計(管理会計)を意味します。

そうなると、経営管理部門の役割は、広い意味での企業関係者に対してビジネスプロセス全体の情報を提供すること、そしてこれら各部門の活動を統制し、より多くの価値を生み出すべく経営者に情報を提供することが主となります。

設備投資や人材投資に同じ金額を投下しても赤字の会社と黒字の会社が存在するのは何故か。それは、無駄に使われたお金は何の価値も生まないからです。付加価値を生まない活動をいくら行っても利益は生まれません。そしてビジネスプロセスのどこで付加価値が生まれ、あるいは失われているのか、会計がそれを特定することができるのです。

◆日本の外から日本を見つめなおすことの意味
今、世界はかつてないスピードで変化しています。変化は、日本だけではなく世界中で起きています。そして世界のどこかで起きていることの影響が、急速に世界中に波及することも珍しいことではありません。

私たち日本人もそのような世界の中で生きています。日本にいても世界の情報は入って来ますが、気を付けなければならないことは、多くの日本人が接する大部分の情報は誰かがフィルターをかけて、日本語に翻訳した情報に限られるということです。
つまり、世界で起こっている本当は重要なことであっても、日本人の感性になじまないことが知らず知らずのうちにフィルターではじかれてしまったり、入ってくるまでにタイムラグがあったり、或いは少々歪んだ形で入ってきたりといったことがあり得るのです。

このため、私たち自身で意識的、能動的に世界の情報を取りにゆくことは非常に意味のあることです。現在はインターネットの普及により海外との距離が近くなりました。また、時には実際に海外に出て行って、現地で問題になっていること、関心が持たれていること、日本と違うことなど意識的に探したり、情報を集めたりすることは非常に刺激的な経験になります。

実際に海外に行くにしてもインターネットを閲覧するにしても、「ことば」の壁を感じる方は多いと思います。海外に対する心理的距離、そして海外の情報に接する際のストレスを減らすには英語力に磨きをかけることが解決への近道です。

私にとってポートランドへの訪問は、企業と社会の関係について再考する良いきっかけとなりました。皆様にも明日につながる素晴らしい機会がありますように。

筆者:KM
■  ルミナスコンサルティング株式会社IFRS関連業務会計英語コーチング等により企業及び人材のグローバル化を支援しております。ウェブサイト訪問はこちらから。

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