監査報告書にKAM(Key Audit Matters:監査上の主要な検討事項)の記載が導入され、現在の短文式から長文式への改訂が予定されているという話は皆様、お聞きになったことがあるのではないかと思います。
この流れはグローバルなもので、イギリス、EU諸国、カナダ、アメリカではすでに適用されており、日本でも2021年3月決算に関する財務諸表監査から適用が予定されています。また、一年前倒しでの早期適用が可能です。
現時点で早期適用を受け入れる企業を調べてみましたが、IFRS任意適用企業が占める割合はそれなりに高いようです。そもそもIFRSは日本基準に比して注記情報が充実しており、相対的にみて(注記)情報拡充への要請が少ない。にもかかわらず、KAMについても積極的と言う事は、開示に対する姿勢に関し、企業間で二極化が生じているのではと懸念しております。
先日、本件についてのお話を伺った際にスピーカーの方から、KAMの情報量について、諸外国の先行事例の分析結果を紹介いただきました。以下は長文式監査報告書のリスクセクションの平均語彙数(単語数)を監査法人ごとに示したものです。
PwC | 1557 |
KPMG | 992 |
EY | 971 |
Deloitte | 893 |
Others | 787 |
”必ずしも長ければ良いわけではなく、文章が長いからといって監査が適切に行われている事を意味する訳ではない。
情報の“granularity”が問題である。”と強調なさっていたのが印象的でした。要は精度の高い情報をいかに簡潔に記載するのかが重要なのだということです。
ここで言う“granularity”は、一般的には「粒度」と訳されます。情報の粒度と言われると何を指しているのかわかりにくいですね。もともとは主に物理学の分野で使われてきたようですが、最近ではビジネスの分野でも見かけるようになりました。ここでは『監査報告書の詳細さの程度』という意味で使われています。
一般的に日本語400字の情報量は英語約1000字(200単語相当)の情報量に相当すると言われています。単純に記載内容が同じであると考えるならば、日本の監査報告書の方が短くなりそうではあります。
また、『監査基準の改訂について』(平成30年7月)において、「当該財務諸表監査に固有の情報を記載することが重要である」との記載がありますが、こちらは監査報告書のboilerplate:ボイラープレート化(まるでテンプレートのような紋切り型の同じ様な記述が並ぶこと)を避けることを意図しています。
この点に関し、諸外国では『generic terminology:一般的用語』の使用を避けるべきであるとし、然るべき団体が文言をチェックする実務があると聞き、少々驚きました。
実効性確保のためには乗り越えなければならない課題がいくつかありそうですが、果たしてどのようなものになるでしょうか。
参照記事
■ 監査基準の改訂に関する意見書(平成30年7月):企業会計審議会
■ ルミナスコンサルティング株式会社 はIFRS関連業務、会計英語コーチング等により企業及び人材のグローバル化を支援しております。ウェブサイト訪問はこちらから。
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